【熱性けいれんの部屋へようこそ】

「熱性けいれん」の名はほとんどの方がご存知ですね。これまで経験がなくとも発熱のたびに心配する方も多く、また実際にお子さんがけいれんをおこしたことがあれば、またおこらないか、大きくなっても続くのではないか、と心配は尽きません。このページではその症状、原因、おこった時の対処法や予防法などをお伝えします。正しい知識をもつことが心配を解決する第一歩です。

1)熱性けいれんとは?

38℃以上の発熱に伴って乳幼児期(主に6ヶ月から5歳位まで)におこるけいれんや一時的な意識障害を「熱性けいれん」とよびますが、脳炎や脳出血など脳自体に大きな原因があるものは除きます。

では「けいれん」とは何でしょうか? (「ひきつけ」も同じ意味です) これにはいろいろな種類がありますが、よく見られるのは、突然体を硬くして、その後手足をブルブル(あるいはガタガタ)震わせ、眼球は上方を向いて白目となり、意識はなくなり、呼吸は荒く不規則になる、というものです。しかしこの症状はほとんどの場合5分以内におさまり、あとはスヤスヤと何事もなかったかのように眠った状態になります。

このほか高熱時に意識がはっきりしなかったり、数分間一点を見続けるような状態も熱性けいれんの症状の一つと考えられます。

2)どのくらいの子がおこす?

5歳までの乳幼児のうち、7~10%は熱性けいれんの経験があり、初めておこった年齢は3歳未満が80%を占め、またけいれんが1回だけだった子は55%、2回だけが20%といわれます。

これをまとめますと:

3)けいれんがおこったら?

初めてけいれんがおこった時はびっくりしてどうしてよいか分からないのが普通でしょう。「まず落ち着いて、よく見る」ことが重要ですが、実際には難しいと思います。ほとんどの場合けいれんは数分で止まりますし、外からの働きかけで早く止まるものでもありません。

何度もおこしているとご家族も慣れてきますが、初めてのときは発作がおさまっても救急車を呼ぶことが多く、これはやむを得ないかと思います。初めての発作のほかに、早めの受診が必要なのは次のようなときです。

けいれんが短時間でとまり、その後すやすや眠っているときは、ダイアップ坐薬(詳しくは後で書きます)の用意があればこれを使います。

4)なぜ熱性けいれんがおこるのか?

脳の中にある神経細胞はいつも弱い電流を出すことで運動や記憶などの重要な仕事をしています。未熟な脳では神経細胞が体温上昇によって強い電流を発生し、その結果筋肉に勝手な運動の指令を出したり、意識がなくなったりするのです。しかし成長に伴って熱の刺激に対する抵抗力が増し、年長児ではけいれんをおこすことが少なくなってきます。また乳幼児でも個人差が大きく、いつも高熱を出すのにけいれんをおこしたことがない子もいれば、たまの発熱でも必ずといっていいほどおこす子もいます。この体質は遺伝する傾向があり、親や兄姉に熱性けいれんがあった方はおこす可能性が高くなりますが、遺伝がなくともおこることはよくあります。

5)そのほかのけいれん

熱がないとき:

けいれんがおきるとき、脳の中では神経細胞から異常に強い電流が出ています。熱がなくとも同じ現象がおこればけいれんになります。

脱水のときは熱がなくともけいれんをおこすことがあります。嘔吐や下痢で血液中の成分が変化することが引き金になります。また冬に多いロタウイルス感染症では下痢がそれほどひどくなくともよくけいれんをおこします。これは点滴治療でおさまり、繰り返しておこることは普通ありません。また薬物中毒などでもおこります。

一番問題になるのは「てんかん」です。これは脳の神経細胞が勝手に異常な電流をだして、このためにけいれんや意識障害をおこす状態です。小児期では1%くらいの割合でおこり、決してまれなことではありません。

熱があるとき:

先にもかきましたように脳炎(あるいは脳症)など脳が直接侵される病気でおこるけいれんは熱性けいれんとは分けて考えます。脳炎や脳症ではけいれんだけでなく、長く続く意識障害や嘔吐など重い症状が見られます。けいれんの後で意識の回復が悪い場合は早めの受診が必要です。

てんかんでも発熱がけいれんの引き金になることがありますので、熱が低くてもおこしたり、回数が多い場合は注意が必要です。

6)脳波検査の意義

「熱性けいれん」の時に脳波検査をすることがあります。この検査は簡単にいえば脳から出る異常な電流(発作波)があるかどうかを見るものです。発作波が極端に多い場合はてんかんの可能性が考えられますが、熱性けいれんでも発作波が出てその後次第に消えていくことがあり、1回の検査では結論が出ず数年にわたって経過を観察する場合もあります。熱性けいれんだからといってすべての方が脳波検査をうけるには及びません。熱が低くてもおこる、けいれんの回数が多い、時間が長い、体の一部で目立つ、発達に遅れがある、といったときに脳波検査を考えます。

7)けいれん防止坐薬について

けいれんをおこした方の多くはけいれん防止用の坐薬(ダイアップ)をお持ちでしょうね。 これは一種の鎮静剤で、脳の神経細胞の興奮を抑えてけいれんをおこしにくくしますが、熱を下げる効果はありません。また眠気やふらつきがでる方もいます。この薬はけいれんがおこったときに使うこともありますが、主に発熱があったときにけいれんを防止する目的で使います。(けいれんの途中で入れた場合、すぐけいれんを止めるだけの効果はありませんが、自然に止まったあとでまた繰り返しておこることを抑える効果はあります)

ダイアップで再発予防をする目安は、つぎのようなものです。

このような方は37.5℃以上でダイアップを使い、8時間後にまだ熱が下がらなければもう1回使います。2回の使用で48時間効果があるとされています。使用量は1回につき体重10kgあたり4mgです。(1本4mgか6mgの坐薬が広く使われます)

上の①から③に当てはまることは実際には少なく、大半の方は38℃以上で心配なら使うという方法を取っています。予防治療の期間は最後のけいれんから2年、あるいは4~5歳ころまでです。

坐薬をいやがる場合には同じ成分の飲み薬を使う方法がありますが、効果は坐薬のほうが優れています。またダイアップを使ってもけいれんを頻繁におこす場合は毎日「抗けいれん剤」を飲むこともありますが、このような治療が必要な方は少数です。

8)解熱剤はどうしましょう?

「熱性けいれんをおこす子どもには解熱剤を使ってはいけない。」という考え方があります。これは解熱剤で急に熱が下がったり、あるいは薬の効果が切れてまた体温が上がるときにけいれんをおこすことがあるためです。欧米では解熱剤に熱性けいれん予防効果があるかという研究が広く行われていました。その結果の多くは「解熱剤を使っても使わなくても、熱性けいれんがおきる確率は変わらない」というもので、解熱剤を使うことで熱性けいれんが増えるということもないのです。私は解熱剤は全身状態の改善の手段としてけいれんのないお子さんと同じレベルで判断するべきと考えています。ただ現在のダイアップのような有効な予防法がなかった時代に解熱剤を使うという医療行為の後でけいれんをおこしたことの後味の悪さはよく分かります。

なにより大切なのは解熱剤を使っても熱性けいれんの予防にはならないということです。けいれんが心配ならダイアップをいつも用意しておきましょう。なおダイアップと解熱用の坐薬(アンヒバなど)を一緒に入れるとダイアップの吸収が悪くなって効果があがらないことが知られています。まずダイアップを入れて、30分たってから解熱用の坐薬を入れましょう。内服の解熱剤ならダイアップと同時でかまいません。

9)日常生活での注意

生活上の制限は何もありません。予防接種も基本的には制限なくできます。発熱の機会を減らしたいならより積極的に行うべきでしょう。日頃から体熱をチェックする習慣をもつことと、ダイアップを常備することは大切です。またカゼのときによく使われる抗ヒスタミン剤(特に市販のカゼ薬に含まれている成分)にけいれんをおこしやすく可能性が指摘されています。カゼでも早めの受診をお勧めします。

ダイアップのような薬を使って熱性けいれんの予防をするのは実は世界中で日本だけです。北欧ではダイアップと同じ成分が浣腸のような形になったものが発売されていますが、これはけいれんを止めるためで予防薬ではありません。予防をしない理由は「熱性けいれんは数分で止まり、大きくなればおこさなくなる。けいれんの回数が多少増えてもそのために脳に障害をおこしたり、てんかんに代わっていく訳でもない」という考えに基づくものです。日本では伝統的にけいれんを忌み嫌う傾向があり、なかなかここまで割りきれる方は少ないのですが、熱性けいれんを心配するときには参考になる考え方だと思います。